
アメリカでは『名探偵ピカチュウ』を超えてゲーム原作映画で歴代初動興行収入1位の座をせしめた という、『ソニック・ザ・ムービー(実写ソニック / 映画ソニック)』の吹き替え版感想です。
ソニック・ザ・ムービー|パラマウント・ピクチャーズ
特にメガドライブ時代のソニック(クラシックソニック)が好きならぜひ観ておきたい映画だと、はじめに伝えておきます。
ネタバレ注意
作品の内容・結末が記述されています
ティーンソニックは宇宙人


ソニックは作品で
出自が変わる
この映画のソニック(海外ソーシャルゲーム版『ソニックフォース』だと「ティーンソニック」という名称)は宇宙人で、リングの力で地球へとワープしてきたとされています。
ロボトニック博士=エッグマンからも「エイリアン」呼ばわりされていますね。
原作作品の出自
- 「元々地球出身」
→ メガドライブ時代や『ソニックアドベンチャー』など - 「未来の地球人」
→ アニメ『ソニックOVA』やコミック版など - 「パラレルワールドの地球出身」
→ アニメ『ソニックX』など - 「異世界の住人」
→ アニメ『ソニックトゥーン』『ソニックフォース』など
本編やコミック版・アニメ版においても媒体(ばいたい)によって出自はコロコロ変わりますが、映画では宇宙人の扱いになります。
ソニックの性格はゲームのような、少し生意気だけど心優しいポジティブなヒーローではなく、表面上は生意気だけど寂しさを抱え、その分友達を欲しがっているという年相応男子です。
アニメのソニックトゥーン寄りの性格だと言えば、わかる人がいるかもしれません。
本作独自の設定


走ると稲妻が走る
宇宙人設定やリングの能力のほか、「ソニックの体毛(トゲ)には莫大なエネルギーが貯蔵され、一気に開放すると広範囲で停電を起こさせるほど」という独自設定もつけられました。
物語の根幹に関わってくる要素で、本気で走ると稲妻が体中を走るのは、まるで『メタルギアライジング』の雷電のようですね。
劇中では「命を狙われる危険な能力」としか説明されていませんが、ロボトニック博士はたったトゲ一本で戦闘機を動かしていますから、相当なエネルギーが秘められているのをうかがえます。
赤い靴は映画の後半から
トレードマークである赤い靴は元から履(は)いていたものではなく、物語中盤でジョジョという女の子かもらったとされ、予告編の映像はダミーで、実際の本編では話の後半からでしたね。
このシーンでソニックの足裏が少し見えたものの、原作ゲーム内ではソニックが素足をさらすのは暗黙のご法度(はっと)とされているタブーです。
ソニックが素足・足の指がある描写は、初期カートゥーンアニメ『ソニックアンダーグラウンド』のオマージュでしょうか?

エッグマンの呼び名の由来
ロボトニック博士も5つの博士号を持つ天才だと劇中で設定され、さまざまな過去話を本人が言っていましたが……後者の真偽は微妙ですね。
エッグマンという呼び名はこの映画だと、「卵型の戦闘機に乗っていて、まるで空を飛ぶ卵だから」が由来になっています。
ゲームでは容姿が卵みたいな体型だから。

映画の雰囲気は『ソニックX』+『ソニックトゥーン』


どっちのアニメも好き
突如見知らぬ世界(地球の人間世界:ある意味では異世界転移)へ飛ぶのはアニメ『ソニックX』を彷彿とさせますね。
また、『MIB(メン・イン・ブラック)』や『スターウォーズ』など、別作品のパロディやアメリカンジョークを交えるのはトゥーンのようです。
熱くなる、しんみりする場面はあるものの、終始ほとんどコメディで、本当にアメリカンジョークが多いので、そういったノリが苦手だと、うっとうしく感じる人もいるでしょう。
中川ソニックも結構好き


素晴らしい熱演だった
当初は本業声優ではない中川大志さんが起用されたことで、特にアドベンチャー系列のファンからあることないこと散々言われていたものの、自分はこれはこれで悪くないなと思っていました。
日本だとソニックの声は金丸淳一さんだと言われていますけど、『アドベンチャー』以前はさまざまな人がソニックの声を担当し、海外では今でもソニックの声(声優)は割と変わっていますからね。
中川ソニックは、アニメ『ソニックOVA』の菊池ソニック(菊池正美さん)と金丸ソニックを足して2で割った感じかつ、孤独・悩みを抱える年相応な性格を声で表現していて上手かったです。
「中川ソニックも全然アリ」で、ロボトニック博士の声も(ジム・キャリー氏由来で)山ちゃんですからね。
日本ファンの態度はとても失礼

初期の声優変更と今作の話を同一視するのはおかしい。今は金丸さんだし金丸ソニックにすべき。

映画のソニックはパチモノだし認めない。金丸さん以外のソニックは偽物だろ。
単に声の好みだけなら「個人の感じかた・感想」でいいんですけれど、日本ネット・SNS上のソニックファンはこじらせた変な人が多いだけに、心ない言葉を並べていたのは残念でしたね。
確かに映画にソニックの吹き替え声優選定にゴタゴタがあったことは知っていますが、それを差し引いてもソニックファンの態度は決してほめられたものではないでしょう。
かつてソニックチーム公式がファンに対し、「あなたの嫌いは誰かの好きかもしれません」と苦言と忠告していたのはなぜなのか。その意味と、節度・敬意を持っていただきたいものです。
言葉は悪いけど、アドベンチャー系列しか知らない「にわか古参」が多い。カートゥーンや海外カルチャーは知ってもらいたいもの。

小ネタや彷彿させるもの


メガドラ時代のネタが多い
全部把握できたわけではないので、わかった部分や調べて判明した箇所だけ記載していきます。
序盤のロボトニック博士から逃げるシーン | 『ソニックアドベンチャー2』のシティエスケープ。撮影場所も共通モデルであるサンフランシスコだった。 |
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ティーンソニックが元々住んでいた島やBGM | 『初代ソニック』のグリーンヒルゾーンで、BGMは『ソニックマニア』のOP。 |
育ての親がフクロウ | メガドライブ時代の書籍で「ソニックの育ての親はフクロウ」と言及されていたものがあった。 |
ベビー(幼少)ソニックの命を狙った戦闘民族 | あれはナックルズ族。パンフレットで飯塚プロデューサーが公言している。 |
リングの力でワープできる設定 | メガドライブ時代のスペシャルステージの入り口。 |
不毛なキノコの惑星 | 『ソニック&ナックルズ』のマッシュルームヒルゾーンがモデル。 |
ティーンソニックが手にした宇宙地図 | ゲームにおける7つのActやカオスエメラルドの数と同じ。 |
「青い悪魔」の似顔絵 | 海外ファンが大好きな「Sanic(サニック)」。公式もネタにしていて、「青い悪魔(Blue Devil)」は『ソニックドリフト2』におけるメタルソニックの車名。 |
カンフー遊びをしていたときのハチマキ | メガドライブ時代のタイトル画面で登場するエンブレム。 |
「グリーンヒルズ」という街 | そのまま『初代ソニック』のグリーンヒルゾーンが由来。ティーンソニックの第二の故郷であるという暗喩(ゆ)? |
夜に野球をするなどのティーンソニックの一人遊び | アニメ『ソニックX』でも夜に野球をやっていた。アニメ『ソニックトゥーン』では結果的な一人遊びを割としている。 |
バーでチリドッグを食べる | ソニックはチリドッグが大好物。 |
リングの入った袋を落とす | ゲーム内でソニックがダメージを受けてリングをばらまくのが由来。 |
ミサイル攻撃の一時停止 | メガドラ時代の待機ポーズ。 |
万里の長城を走るシーン | 『ワールドアドベンチャー』のチュンナン昼ステージ。 |
ロボトニック博士との最終決戦 | 一瞬だけ『大乱闘スマッシュブラザーズSP』のソニック立ち絵ポーズになる。 |
終盤に流れるピアノ曲 | 『初代ソニック』のグリーンヒルゾーンBGM。 |
ラストのテイルスの声 | アニメやゲームと同じ広橋涼さん。ただしへリテイル(しっぽ飛行)はメガドライブ準拠。 |
もっと詳しい人なら、さらに見つけてくれそうです。
追 記
ツイッターで「終盤に流れるピアノ曲」の楽曲元について教えてくれた方がいましたので、リンクを貼っておきます。『THE FLASH/フラッシュ』のオマージュも多い?
DCコミックの2014年テレビドラマ『THE FLASH/フラッシュ』も参考にしているだろうとドラマ版を視聴してそう感じましたね。
ちなみに海外ファンの間では昔から、「フラッシュとソニックはどっちが速い?」みたいな論争もずっとやっているそうです。
劇中でもフラッシュのアメコミをソニックが読んでいるよね。

気になったところ


ここが惜しかった
本作について気になった箇所をいくつかと述べていきます。
ロボトニック博士の性格
ゲームやアニメのエッグマンも天才なのにワガママで横暴な科学者でしたが、本作ではそういった感じではなく、奇行を繰り返す変人の印象です。
エッグマンではなく、映画『マスク』を観ているかのようです。あの映画も同じくジム・キャリー氏主演で山ちゃん吹き替えですからね。
ロングクローのデザイン
ティーンソニックの育ての親「ロングクロー」のデザインが、擬人化表現があまりされておらずただのフクロウであるところでしょうか。
ただ、アニメ『ソニックOVA』に登場した大統領執事もまんまフクロウのデザインだったので、この映画だけがおかしいというわけではありません。
しかしジェットなどのバビロン盗賊団や、トゥーンのソアなど、鳥モチーフのソニックキャラクターは何人もいるので、その流れを汲(く)んでもよかったのではと思いました。
助手のストーン
ロボトニック博士の助手である「ストーン」のキャラクターが薄く見えがちで、メイン登場人物たちが個性的すぎるのを差し引いても、いてもいなくても大して変わらないような存在でした。
ただ、ロボトニック博士がそもそも人間嫌いなので、余計な感情を持たない人物を助手に選んだという解釈もできます。
役者さんがイケメンなので、海外ではロボトニック博士とのBLネタがそこそこある。

エンディングの洋楽
一言で言えば「よくある洋画の洋楽」で、ソニックならばアップテンポで爽快感のあるロックやビート系を流してくれるだろうと少し期待していただけに、ここは正直残念に思いました。
曲そのものは悪くないものの、ソニックらしい楽曲かと言われると微妙な感じですね。
変更前デザインの未記載
自分だけでしょうが、パンフレットの話で、ティーンソニックのモデリング変更の経緯や元デザインが掲載されていないのはもったいなく感じます。
パンフレットの飯塚プロデューサーのインタビューでそれを匂わせる記載はあった程度で、個人的には初期デザインのベビーソニックはどうなっていたのかが見たかったところです。
デザインの変革は結局ネット上のインタビューのみの言及で、事実上、完全になかったことにされているのはもったいないですね。
のちにディズニーがアグリーソニック(みにくいソニック)としてネタにしたよね。

総評:ソニックを知らなくても楽しめる映画


爽快なファミリー映画
公開前はモデリングから声の担当まで散々言われていた映画ソニックは実際に観に行ってみると、映画の本筋やストーリー自体はしっかりしていたことがわかりました。
ファンの苦言に挑発行為をしていた海外公式アカウントはともかくとして、本当に初期モデリングがよくなかっただけだったんですね。
エンディングクレジットでは飯塚プロデューサーの名前があったものの、デザイン変更前から関わっていたのか、それとも騒動後にデザイン監修として配属されたのかは不明です。
メガドライブ世代にはたまらない
ソニックを知っている人だと、最近のソニック作品(モダンソニック)世代より、メガドライブ(クラシックソニック)の世代の人・初期カートゥーン作品を知る人が楽しめる映画でしょう。
上述したパロディもさることながら、エンディングもメガドライブリスペクト満載です。
ただゲームの要素は一部分で、「ソニックの世界を再現した」より「ソニックのキャラクターとアイテムを使った実写映画」に近く、前者を期待していた人には物足りないかもしれません。
ラストシーンはいわゆる、続きを思わせて物語が終わる「クリフハンガー」的な表現ですが、もし本作の続編があるのなら期待したいですね。
追 記
続編が2022年に公開されることが発表されました。『ソニック・ザ・ムービー』続編、2022年4月公開決定。黄色いアイツが活躍?|engadget日本版