
去年、新型コロナウイルスが流行する少し前に、『イオン』でマスク着用原則禁止が規定されて賛否を呼びましたよね。
理由を「声がこもって表情が見えないので接客に不適切」などと言われていましたが、元接客部門リーダー経験者としては、マスク着用を原則禁止に義務づけるのは(一部を除き)時代に即していないと思ったのが正直な感想です。
新型コロナウイルスで大騒ぎになってこの件が再び議論されているようなので、以下から自身の経験も交えて考察していきます。
個人の見解です
ほかの意見もご参照ください
違和感があったイオンのマスク着用原則禁止の弁解
重ねるように、コロナウイルスが流行する少し前、イオンでマスクの着用原則禁止が規定されて賛否両論の嵐が巻き起こりました。
イオンが従業員の「マスク着用原則禁止」通達で物議 他の接客業ではどうしてる?|FNN PRIME
そもそも論として、この着用原則禁止は対策としても意味をなしていない規定だと、記事を見る限りでは疑念を抱くものです。
というのも、その理由は「声がこもって表情が見えにくいというお客様からクレームがあった」とされますが、一方で担当者から許可を得ればOKと例外を示しています。
ですがその理屈だと、特別な例外があってもお客さんは事情を知らないのだから、お客さんの声で対策をしたとはならないし、担当者それぞれの主観で可否が変わってしまいます。
つまり一貫性がなく、店の貼り紙で「従業員のマスク着用のご理解を願います」と、事前にクレームへのリスク回避をしたほうが合理的です。
なぜマスクをする店員がいるのか
そしてなぜマスクをする従業員がいるのかといえば、
- 慢性的な接客人員不足により、休むことさえ厳しいので自己管理は徹底しないといけない。
- しかし自己管理を徹底していても、一部の配慮のないお客さんから不意に病原菌をうつされる可能性がある(特に中高年・高齢者にその傾向が強い)。
- 海外旅行客の場合は日本と違い、咳エチケットや配慮の概念が若い世代でもあまり根づいていない。
- ひどい場合はお客さんからうつされた不可抗力であっても「自己管理が甘い」扱いされ、要休養なのに人手不足を理由に出勤させられる場所もある。
- 出勤する形になるので病欠にもならない。
- さらに蔓延(まんえん)すれば職場環境も悪化する悪循環になる。
という理由からの自己防衛を要因が大きくあります。
就職活動やテスト、試験前で休めない学生バイトもいますし、さらに言えば、レジ周りは人の流れも多いことからホコリが舞いやすく、乾燥もしていますので、気温差や乾燥に敏感な人、気管が弱い人ならなおのことでしょう。
一部では後述引用記事のように「客を病原菌扱いするなら接客するな」という暴論じみたものも見かけましたけど、マスクしているよりも、マスクなしでせき込みながら接客するほうがよっぽど印象悪いのではと。
マスク着用でもいい接客は経験上可能
自分は3年間のバイト、1年以上の部門リーダーを勤めて退職するまで、ずっと病気の自己防衛や、長時間の接客による滑舌の低下を防ぐため、口角筋・舌筋トレーニングを隠す目的でマスクを着用していましたね。
ですが着用でクレームが来たことは一度もなく、むしろ「(マスクをしていても)笑顔が素敵な店員」と上層部やお客さんから多くの高評価をもらっていました。地区全体の代表が集まる集会にも幾度か参加したものの、同じくマスク着用でクレームが来たという話は、少なくとも聞いたことがありません。
なお勤めていたサービス業では、
- 声がこもることを考慮し、マスクを着用する場合はより意識して発声する。
- 目元や眉毛あたりの表情筋を動かし、表情を伝わるようにする。
このようなマスク着用の接客マニュアルがしっかり記載されていましたね。中小だった自分のところですら、時代に合わせて柔軟に変えています。
だから表情が見えないからという弁解は、後述するように「お客様を絶対的な神様のように扱っていた、時代錯誤(さくご)な意見」ではないでしょうか?
いまだ日本にはびこる接客の古い考えかた
このマスクの着用はよくないというのは、お客様を神様のように扱い、まだ悪質クレームの概念や慢性的な人材不足、不景気が問題にされなかった一昔前の時代の話のように思えます。
もし接客関連、特に百貨店・量販店・小売業・飲食店の接客業専門家や担当部門がこれを言っているのであれば、「あー古い考えかたの人だな」と、自分はまずそういった印象を抱きますね。
先述したイオンの件はむしろ、「声がこもって表情が見えない」「お客様からそういったクレームが来た」という大義名分で、本音ではルールを変えたくない保守的な体質が見えなくもないですし、本当にそのようなクレームが来たとしても、以下の記事を見る限りではマスク反対派はそんな時代の中高年・高齢者世代のお客さんの意見が多いようですね。
接客の仕事で「感染症の不安」は7割 マスク着用に「賛成」「反対」それぞれの意見とは?|ITmedia ビジネスオンライン
どちらにも統計的なものはなく、確証はないので、あくまでも文体や記事アンケートの主観的印象による推察(すいさつ)でしかありませんが。
この前提で着用禁止ならまだわかる
ただ誤解しないでいただきたいのは、「マスク着用の禁止は何がなんでも廃止すべき」だと極端に主張するつもりはありません。
以下のいずれかの条件が満たされているのであれば、禁止規定にも一定の理解を示せます。
- 【充実した人材環境】満足な人員補充、万が一接客で病原菌をもらった場合でも療養に専念できる環境や、人が足りないときは臨時休業もできるぐらいの余裕。
- 【金額が見合った場所】高い給料で少人数のお客さん相手にサービスに注力する高級店や、数百万単位の買い物をする新車販売店など。
これらが挙げられますね(記事冒頭で「一部」と表記したのはこれが理由です)。
あとはまあ……海外旅行客が多い店において、日本以外の国では病気以外でマスクを着ける風習がほとんどなく、マスクしていると「キミは病気なのに仕事しているの?」と誤解されるからというのも、可能性としては全くないわけではないですね。まあないでしょうが。
……しかしながら、不景気やカスタマーハラスメント(悪質クレーマー、カスハラ)問題などで人員不足・人件費削減が叫ばれて久しく、この習わしは接客業従事者のプレッシャーをいたずらに刺激し、自己防衛もさせてくれないと、人員確保ができない遠因にもなるので、結局、自分で自分の首をしめているようなものです。
慣習という名の精神論で従業員をいじめても、何も得をしません。
最後に:マスク着用による接客の質の変化はない
正直、一部例外を除いていまだに「声がこもって伝わりにくい」とか「表情が見えないから」という理由でマスク着用を禁止にするのは、今の接客現場を知らない人や、サービス業の現況を理解していない、一昔前の古い認識の持ち主だと自分は思います。
ちゃんと従業員教育がしっかりしていれば、マスクをしていても素敵な接客はできるものです。
「お客様は神様ではない」「日本の接客はやりすぎで過剰(かじょう)」と疑問を呈する人が客側・店員側双方に増えている昨今。時代の流れや事情に合わせ、柔軟に認識を変えていく必要があるのではないでしょうか?