『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』を観に行きましたので、そのレビューになります。
核心的ネタバレは極力避けつつあらかじめ断っておくと、リメイク(作り直し)というよりリブート(仕切り直し)に近い作品です。
「ホウオウに出会う約束の後が完全オリジナルストーリーで描かれる」と謳(うた)われましたが、展開的に無印(カントー)編には全くつながらない上に話の展開もほとんど違う、完全に別物のパラレルワールドです。
無印編と同じなのは最初の10分だけ……にしては、話の大筋だけが一緒でダイジェストに近く、かなり違います。
シゲルの登場は1カットの後ろ姿のみで、カスミは釣りどころか存在すら語られない。1話のリメイクや後日談目的なら間違いなくガッカリするでしょう。
言うなれば、『キミにきめた!』はタケシやカスミに出会わなかった、もしくは仲間にならなかった世界ですね。
確かに、ベストウイッシュ(BW編)回想シーンのような、タケシやカスミを仲間にして現代技術で作り直した映像は観たかったですけどね。
一応映画でもタケシやカスミのほか、ケンジも登場自体はしてはいますが……エンディングの数秒の1カットだけで声もなく、ファンサービス的な扱いですので、期待しないほうが吉。
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ネタバレ注意
記事にネタバレがあります
無印版と映画版との相違点
無印編と映画版は以下の部分が異なります。
設定や時代背景を反映
サトシの部屋のテレビがブラウン菅から液晶テレビに変わり、机にはノートパソコンが置かれているなど、現代の小物を反映させられています。
別地方のトレーナーやポケモン、きのみや特性が存在するなど、今のポケモンのシステムも登場していましたね。
アニポケ(アニメポケモン)のXY編で登場した、「電気ポケモンは気配を電気で感じ取る設定」も使われているようです。
当時日本語だった表記がすべてアニポケ世界の文字に置き換わっているのもそうですが、ハナコさんの厳しい母親としてのトゲがある口調が低減されているのも、時代のせいでしょうか?
バッジ3コ手に入れるまでは…
エリカを倒して3コ目のバッジを手に入れるまで、サトシは一人(と一匹)で旅をしていることから、今作でのタケシやカスミは、ただのジムリーダー扱いなのでしょう。
しかしバッジを披露するシーンがなく、アニポケは8つ以上のジムがありますから、ニビジムやハナダジムとは違うジムに行ったのかもしれません。
つまり自転車を壊していないし女装もしていないということに……
タケシとカスミが登場しなかった理由
出さなかった理由は湯山監督のインタビューで明かされていますので、記事から一部抜粋です。
実は20周年ということで、(以前テレビアニメで活躍していた)タケシやカスミが登場するというアイデアもありました。ただ劇場版で登場させると、初めて観る人に彼らの説明が必要になる。
ですが、この劇場版でタケシやカスミと初めて出会うとなれば、テレビシリーズとは違う出会いになり、皆さんが知っているタケシとカスミではなくなってしまう…………。そして劇場版の上映時間の関係もある。
いろいろなことを考えた中で、この作品を成立させるのはやはりサトシとピカチュウの出会いではないかと。なのでテレビアニメ第1話で描かれた最初の「出会い」のところから、新しい作品を作ろうと思いました。
『ポケモン』映画、なぜ20作目で“原点”描いた?監督の答え|シネマトゥデイ
『ジョジョの奇妙な冒険(第一部:ファントムブラッド)』のアニメ映画で、スピードワゴンを出せなかったのとほとんど同じ理由で、やはり尺の都合だったんですね。
今の小学生はネット情報やアニメ配信、深夜放映の過去作映画を見ていない限り、タケシとカスミは知らないんじゃないかと思いますし……
先に書いたように、最後に出てたのもベストウイッシュの回想シーンぐらいですからね。
ロケット団の目的
そもそもロケット団は終始サトシと遭遇していませんので、初対面のシーンもなく、ピカチュウを狙いません。終始ホウオウを手に入れるために行動していて、ことあるごとに飛ばされるから、アーボやドガースの出番は一切なし。
しかしエンディングでは、サトシやピカチュウをつけ狙っていますので、ちょっと矛盾します。
これはホウオウと戦えるスゴいトレーナーとして後を追っているのかもしれませんが、ピカチュウをサカキに献上するためかというと微妙なところで、アニポケ本編における行動原理にもつながりそうにありません。
サトシとピカチュウの信頼関係とアイアンテール
無印編ではオニスズメの襲撃があっても、ピカチュウがサトシになつき、最高の相棒になるのはかなり後。サトシの言うことを時折聞かなかったり、カスミのほうに寄ったりしていました。
しかし今作では尺の都合か、オニスズメの一件で完全に仲良くなり信頼関係が結ばれます。
途中サトシがピカチュウに失言して仲違いしかけたとき、ピカチュウはサトシを信じているほど。逆にサトシの精神的未熟さは初期の無印編を彷彿(ほうふつ)とさせました。最近のサトシは精神的に人格者なので、逆に新鮮。
なお中盤ではアイアンテールも使えるようになります。これも現代のゲームシステムを反映した結果でしょうね。ビジュアル面ではベストウイッシュのエフェクトに近いです。
ヒトカゲの出会いとリザードンに至るまで
話の流れは一緒ですが捨てたトレーナーが違うほか、リザードからリザードンになっても、サトシの指示に従順で指示をしっかり聞いているのが驚きで、炎を吐いて反抗したり愛情表現もしない。
今作のサトシはポケモン図鑑を使わなくてもポケモンや技に詳しく、バトルの腕も別段悪くなかったりしますからね。オーキド博士からポケモン図鑑をもらっているシーンが一切ないので、そもそも所持していないのかもしれませんが……
その捨てたキャラクターが今作オリジナルの「クロス」というトレーナー。弱いポケモンは捨てる育成持論や捨てたポケモンが拾われ、進化して再度対面する部分は、どことなくDP編のシンジっぽい。
『キミにきめた!』は古参ファンに向かないガッカリ作品か?
重ねて言いますが、今作は無印編と比較すると展開も設定もほとんど変わっているのでつながりません。かといって古参ファンに向かないガッカリ作品なのかと言われればそうでもありません。
というのも、上述したアニポケのセルフオマージュもそうですが、マニアの域でしかわからないようなレベルの要素や、懐かしい要素もあるんですよ。
- 【TOHOシネマズ限定】上映前のロゴアニメーション
- 劇中BGM
- バイバイバタフリー
- ピカチュウのボツ案
- 故首藤剛志氏のポケモン最終回プロット案
以下から少し詳しく解説します。
【TOHOシネマズ限定】上映前のロゴアニメーション
TOHOシネマズのロゴアニメーション映像のピカチュウの動きが、初代ED『ひゃくごじゅういち』と同じです。構図は違いますが古参から見れば「おっ?」となるハズ。
劇中BGM
劇中のBGMは、無印時代の曲を中心に利用しています。原曲か新録版かはわかりませんが、子供のころにテレビでみたままの感覚が味わえました。
バイバイバタフリー
サトシの中の人も印象に残っているという、バタフリーの別れを描いた「バイバイバタフリー」は、アレンジされているももの、名場面の部分は抑えられていて、無印版と遜(そん)色はありません。
ピカチュウのボツ案
終盤のネタバレになりますが、サトシに向かってピカチュウが(意思疎通の形で)喋ります。
でもこれって、「アニメが始まった当初の設定では、ピカチュウは人間の言葉を覚え、喋る予定だった」ボツ案が使われている感じですよね。
中の人の演技があまりにも素晴らしかったので、そのままピカチュウ語になったそうですけど……ロケット団のニャースが喋っているのは、この初期設定の名残りとも言われています。
意図したかどうかはわからないも、仮に古参ファンに向けたファンサービスなら嬉しい限り。
故首藤剛志氏のポケモン最終回プロット案
ちょっとこれはこじつけが入るかもしれません。
中盤、サトシがもしポケモンがいない世界で生活していたら……というシーンがあるんですけれど、どことなく初期無印編の脚本と構想を担当した故首藤剛志氏が描いていた、「幻のポケモン最終回プロット案」を彷彿とさせたんですよ。
ざっくり要約すれば、
年老いて老人になったサトシは、子供だったころを思い出し、空想の存在であるポケモンとの出会いや経験、さまざまな思い出を懐かしむ。ポケモンは大人になる過程で見る「夢」であり、いつかはその空想の世界から卒業する……
幻のポケモン最終回プロット案(一部要約)
……というもの。
本当にざっくりで、「ポケモンが人間に戦争を起こした」とか、「自己存在とは何か」という部分はさすがに使われませんでしたが、
- ポケモンは空想の存在である
- サトシがこれまで見ていたポケモンの出会いや冒険は夢だった
……という部分は、つうずるところがあるのではないでしょうか。
戦争や自己存在については、『ミュウツーの逆襲』で観ることができますね。
オーキド博士を先生と呼ぶのはサン&ムーンっぽく(もしくは初代ポケモンのボツデータ)、クラスの先生に四天王のキクコさんが……
総評:初期の構想を取り込んだ異色の作品
無印編とは展開も設定もほとんど違い、カスミやタケシが仲間になっていないパラレル作品です。
しかしかつてのボツ案や歴代アニポケのリスペクトの数々など、古参ファンを見捨てているわけでもない、独特なテイストの作品です。ちなみにサン&ムーンのポケモンスクールメンバーは別役で出演していたり。
とはいえ、見る人を選ぶ内容なのは確かなので、無印時代に相当思い入れがある人、従来のポケモン映画と同じパラレルだと割り切れない人にはオススメしない映画ですね。
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